水と温度のスタイリングテクニック| プロが教えるヘアケア術

髪はとにかく熱が大嫌いです。

熱に弱いから、温度をコントロールしてあげないと髪が固くなってクセ毛やパサパサの原因となってしまいます。

ところがです。 熱に弱いからといってビクビクしているとまったくスタイリングができなくなります。 素敵な髪型作りに「熱」はとっても強い味方になるのです。

さて。 温めてはいけないし、温めなくてはいけないという2つの矛盾をどうすれば解決できるのでしょう?

そこで、今回はこのポイントについて詳しくお話していきます。 2つの違いを知ることで、あなたは髪を熱のダメージから守って自由自在にスタイリングを楽しむことができるようになります。

まずはちょっと、髪の温度についておさらいです。 髪はお肌と違って自分で発熱できないから、いつも気温と同じ温度を保っています。 外気が20度なら髪の温度も同じように20度です。 この温度ではキューティクルが閉じた状態になっていますが、温度がアップして30度から60度になると少しずつキューティクルが開き始めます。 キューティクルの隙間が広くなると髪はダメージを受けやすくなりますが、同時にトリートメントやヘアエッセンスが浸透しやすくなる。 つまり、ケアにぴったりなのがこの30~60度という温度です。

20度で閉じていたキューティクルを30~60度に温めてトリートメントやエッセンスを入れ込む。 髪の温度が冷えるとキューティクルが閉じるからフタとなり栄養が内部にしっかり閉じ込められます。 この熱の力を最大限に応用したのがヒートケア。

最近のヒートケアは熱でコーティング剤を固めるものが多いのですが、本来のヒートケアとはこの原理を応用するものです。

ところがです。 これが70度を超えると話が変わります。 70度を超えると髪は突然変異を起こして一瞬にして固まってしまうのです。 一度固まってしまった髪は、よほどのケアをしない限り元には戻りません。

すると何がおこるか? 60度まではゆっくり開いてきたキューティクルが、70度になった瞬間に開いたまま固まって元に戻らなくなるのです。 開ききったキューティクルはマジックテープのように周りの髪とからまって、手触りが悪くてスタイリングしにくい髪になってしまいます。

さあ。 これがダメージと熱の関係です。 ここまでを読むと髪には一切高熱を与えてはいけないように見えますが、実はそうではありません。 同じ高熱でも髪がヤケドすることもあるし、そうでないこともあるのです。

髪が濡れているのか、乾いているのか。 この2つの違いで髪の温度は大きく変化します。

濡れた髪にドライヤーを当てると70度を簡単に越えてしまいますが、髪が乾いていれば高熱にはなりません。 つまり、夜乾かすためのドライヤーではあっという間に70度以上の高温になりますが朝の乾いた髪はなかなか70度を超えることがないということです。

この秘密はサウナと同じ原理。 「サウナ」の温度は約100度。 こんな部屋の中であっても、あなたは何分間も我慢することができます。

ところが、これが同じ100度の「熱湯」ならどうでしょう? あなたは1秒だって我慢することができません。

この違いは「水」。 水はとっても温度が変化しやすくて熱を伝えやすいから温度を一気に上げてしまうのです。

サウナの場合、肌の表面に触れているのは熱を伝えにくい空気です。 この時、お肌は空気のバリアに守られているから室温が100度であっても肌表面は100度になりません。

ところが、熱湯の場合は熱を伝えやすい「水」が直接肌に触れてしまいます。 お肌には100度の熱湯が接するために、肌表面の温度が100度になる訳です。

髪も同じように濡れている場合は高温になりやすくて、乾いていればなかなか高温になりません。 具体的には、100度の熱を髪に与えたら「濡れた髪」は100度になりますが「乾いた髪」では温度が上昇しにくいのです。

ちなみにこれは「水」の場合に限ります。 オイルは熱を伝えにくいので、ヘアオイルを使っていれば簡単に温度が上がりません。

このように、「髪を乾かすドライヤー」は温度に気をつけなくてはいけないけれど、「乾いた髪をスタイリングするドライヤー」ならそんなに熱を気にする必要はないのです。 だから、朝は一気に髪を温めてスタイリングできます。

それでは「濡れた髪」と「乾いた髪」2つのポイントを説明しましょう。

まずは夜「濡れた髪を乾かす」時に大切なポイント。

まず、ドライヤーの時間を少なくするために可能な限りタオルで髪の水分を吸収させておくようにしてください。 髪の水分が少なければ少ない程ヤケドする確率が低くなります。

次にドライヤーを使い始めたら、とにかく髪が高温にならないようにドライヤーを遠くから当てます。 高出力ドライヤーなら肘を曲げないぐらいがちょうどいい距離です。

ドライヤーはまず頭皮から当てて、頭皮を乾かすようにしてください。 頭皮が乾いた後で髪を乾かしていきます。

そうして髪が80パーセントぐらい乾いたらドライヤーをやめて自然乾燥する。 80パーセントといってもピンとこないでしょうが「髪が乾いてきてほんのり湿り気を感じる」ぐらいがちょうどいい。 100パーセントしっかり乾かしてしまうと髪に形がついてしまうため、翌朝のスタイリングが難しくなります。

朝、髪が広がるという方は夜のドライヤーで100パーセント乾かしてしまう方がほとんど。 夜のドライヤーで髪のベースを作ってしまっているのです。 夜は乾かしすぎないドライヤーを意識しましょう。

ここまでは「濡れた髪を乾かす」時のポイントですが、これが「スタイリング」になると少し話が変わります。

「乾いた髪を乾かす」場合。 ここでは髪を一気に温める事が大切になります。 乾いた髪が高温になりにくいのはお話しましたが、とにかく一気に温めるのが思い通りのスタイリングを作るポイントなのです。

この理由は簡単。 強火で焼いたステーキ肉の中が生焼けになるように、髪も高温で表面を一気に温めても芯まで熱くなりません。

さらに、じっくり中まで焼いたお肉は冷めるのに時間がかかりますが、強火で表面だけ焼いたお肉は冷めるのも早くなります。

スタイリングのポイントはステーキ肉をレアで焼く原理と同じです。

まず髪の表面を一気に温めて柔らかくなった状態でスタイリングします。 髪の芯は冷えているのでその後一気に温度が下がり、スタイリングをキープします。

髪は温度が上がると柔らかくなって、冷めると固くなりますから、髪がゆっくり冷めてしまうと髪がゆっくりと固くなり髪型がどんよりしてしまうのです。 一気に温めて、一気に冷やすのがスタイリングのテクニック。

実際に「スタイリングが下手」だという方も一気に熱する事を知るだけで驚くほど上達することがあるのです。

ここまでの話は、朝の髪が乾いていることを前提とした話ですが、一番理想的なのは朝スタイリングする前にシャンプーすることです。 どんな髪でもスタイリングしやすいのは、しっかりシャンプーした後。 ところが、ここまでの話で分かるように朝から髪を濡らすということは一歩間違えると髪がヤケドします。 そのため朝から髪をしっかり濡らす方は一気に頭皮から乾かすということを絶対に守って下さい。 髪ではなく頭皮を乾かすことで、髪自体が高温になり過ぎず一気に水分が蒸発してスタイリングしやすい温度に高めることができます。

朝、髪をしっかり濡らさない方は、温度ではなく次のバランスが大切になるので覚えておいてください。 スタイリングは3つのバランスで決まります。 熱・スタイリング剤・水

この3つのバランスを間違えるとスタイリングが難しくなるのです。 髪質やスタイリングによって、このバランスを変える必要がありますがイメージすると以下のバランスになります。

水1:熱6:スタイリング剤3

そもそもスタイリング剤と熱は比較できませんから、上の比率はあくまでも直観的なイメージです。

このイメージを説明すると、 髪をリセットするために1の水が必要となり。 自由なスタイリングのために6の熱を使って。 髪を長時間キープするために3のスタイリング剤を使う。

このイメージがスタイリング剤の基本となるバランスです。

ほんの少し髪を湿らせて 【水1】 ↓ ドライヤーで形を作って 【熱6】 ↓ スタイリング剤でキープする 【スタイリング剤3】

これにはもちろん個人差がありますから、あなたの髪質と髪型に合わせて最適なバランスを見つけてください。

このバランスが大切な理由は、最終的に10にならないとスタイリングがきまらないから。 例えばあなたが、スタイリングに【水1】を使わないのであれば、【熱6】:【スタイリング3】だけの合計【9】となってしまいますね。 これではスタイリングが難しいから残った1をどちらかに割り振って合計10にする必要があるのです。 この場合ならスタイリング剤の量を少し多くして(3→4)スタイリング剤4:熱6の合計10にしなくてはいけません。 必ずバランスが10になるように何かを減らすときは何かを増やすようにしてください。

朝寝坊したときに髪型がおかしくなるのは、引き算のまま外に飛び出すから。 急ぎ過ぎてドライヤーの時間が少なくなった場合に合計が8や9になってしまったら変な髪型になります。

ちなみに、朝はシャンプーしないけれどもスタイリングの前にスプレーなどで髪を湿らせる方。 髪のヤケドを特に気にする必要はありません。 少しの水分はすぐに蒸発しますから、髪の温度を左右する前に乾いてしまいます。

また、ここまでを読み返してみると「朝はどんなに熱を与えてもいいんだ」と読めてしまいますが、何でもありという訳ではありません。 乾いた髪であっても髪はヤケドしますから、一か所に熱を与え続けないように注意してください。 濡れた髪に比べて、乾いた髪はヤケドしにくいという事です。

さあ。 今回のお話は髪を熱から守る方法と、自由自在のスタイリングを楽しむ方法でした。 美しい髪で素敵な髪型を楽しんでくださいね。